アルパカの紡績工場
- Shiori tanaka
- 12月8日
- 読了時間: 10分
更新日:12月9日
私は、アルパカの糸で作られた製品が大好きです。昨年より、North pole Alpaca tightsというlaceflowerのなかでもいちばんにあたたかいタイツを発売しました。冬にしか纏うことができないタイツが大好き。寒い冬が大好き。なぜなら、タイツが履けるから。女性ならではのファッションスタイルを、より楽しくさせるアイテムだと思うので、私はタイツが履ける冬のファッションが大好きです。
暖かくて、可愛くて、履いていて気持ちの良いタイツを日々探求しているなかで、大好きな素材「アルパカ」でタイツを作りたいと思った。アルパカが好きな理由は、昨年書いたこちらのブログより。( Alpaca tights )
もともとNorthpole tights は、リヨセル素材で展開をしていて、シンプルな小菊のお花柄がワードローブしやすいお気に入りのタイツ。素材を変えて作りたいと思い、私はこの柄にアルパカの糸を当てはめてみることにした。
レッグウェアを作るには、どの機械に、どの番手の糸を合わせるか。使用する糸の主役は表糸という名前の通り表面に見える糸と、名脇役な裏糸の2種類あって、裏糸も名前の通り表からは見えない影の立役者。表糸と裏糸のバランスがとても大切です。機械にかける糸にも、適正番手というものがあり、適正番手でないと機械に負荷がかかってしまい、針が折れてしまったり、生産効率も下がってしまうので、なるべく適正番手の糸を機械に合わせる必要があります。パズルのように当てはめて作っていくレッグウェアのものづくりは、デザインだけではなく、くつ下の作り方をわかっているかいないかで、どんなくつ下に仕上げたいか、なかなか思うように作るには本当に難しい。もちろん、現場にいる技術者たちに委ねることも可能だが、細かな要望に仕上げたい場合は、自分も同じように知識を持って依頼できるようにしたいという想いがあるので、日々勉強している。終わりがないくつ下作りは、学ぶたび、「楽しい」しかない。
今回は、奇跡的に私が使いたいアルパカの糸が、使いたい機械の適正番手にぴったりはまった。糸以外にも、特にタイツは、くつ下よりも肌に当たる面積が大きく、とても繊細なアイテムで、難しい物作りだと感じる。お腹いっぱい食べても苦しくないウエスト仕様。1日履いていて、ストレスのない素材。股上が下がってこないもの(これ、かなり小さなストレス)。それと、座った時に目が合うタイツが、小躍りしているほど可愛いもの。
などなど、かなり着用感に妥協できない点が多くて、タイツは履き心地が悪いって諦めて欲しくないのです。履き心地のいいタイツは、この世の中にたくさんたくさんあります。私が思う履き心地のいいタイツに、アルパカの素材がぴったりだと確信していたので、サンプルを作成する段階からとてもわくわくしていた。
今回使用したNorthpole Alpaca tightsのアルパカの糸の混率には、アルパカ・ウール・ナイロンと書かれていた。なんでナイロンが入っているのだろう?なんでこの混率?糸が生まれる姿も見たいと思ったけど、この混率でなぜ糸が作られているのかなど、紡績方法が気になって、自分の目で確認したいと思い、紡績工場を訪問することにした。
誰が、どうやって、どんなふうに、どんな場所で生まれるのか、知りたい。知った方がもちろん勉強にもなるし、自分の目でみた景色は、嘘がない。きっとお客様に自信を持って伝えられると思うから。
私のメールフォルダは、靴下工場さんと糸商さん2つフォルダを作るくらい、糸商の営業さんとのメールが溢れている。気になると直接メーカーにすぐ問い合わせるし、電話で聞いたりもする。デザインすることと同じくらい(もしくはそれ以上に?)時間をかけて素材のことを考えています。そうやって、自分の力と目で見た景色、記憶を残して、くつ下に向き合っています。紡績工場は、くつ下が生まれる前の更に糸が生まれる前の段階。靴下は、「素材が命」。日々くつ下と向き合っている中で、これに尽きる。くつ下が生まれる中で、紡績もとても大切な工程なのだ。
私をこんなにも魅了しているアルパカについて、改めて。アルパカとは、世界最高の天然繊維の一つと言われています。繊維自体の構造がマカロニのように空洞になっており、空気層に暖かい空気を取り込むので暖かく、素材自体も軽い繊維です。
アルパカの特徴は以下。
< アルパカの特徴 >
強度ある
動物性の繊維、獣毛の糸の中では、繊維が長く強度が高いところが特徴的です。動物性繊維は基本的に強度が弱いものが多いので、これは一番嬉しいポイント。繊維が長いと比較的、耐久性のある製品を作ることができます。
毛玉になりにくい
表面を覆うスケール(獣毛の糸はスケールという鱗状のような繊維調をしています)の形状が大きく(スケールが大きい=毛玉になりにくい)、毛玉が起こりにくい繊維です。スケールの大きさは 【 アルパカ>カシミヤ>ウール 】 。どうしてもウールは毛玉になりがちなのは、スケールの大きさに関係しています。
あたたかい
羊毛の7倍と言われるあたたかさがあると言われています。繊維自体もとても軽くて暖かいので、身につけていてストレスがありません。
デメリットとしては、非常に編みにくい、織りにくい繊維ということ。アルパカ100%だと繊維自体が柔らかく滑りがいいので、ウールなど他の糸と混紡して糸にすることが多いです。アルパカ製品を作るということは、少し難易度が高いように感じる。そんなアルパカの糸を、国内で一番紡績し、アルパカを国内に輸入している紡績工場さんがあります。愛知県一宮市にある東和毛織株式会社(以下、東和さん)。

東和毛織株式会社1897年(明治30年)に名古屋で毛織物メーカーとして発足。1951年(昭和26年)に紡績事業を始め現在は愛知県一宮市に工場を構える。長年の経験から、世界中より厳選した多種多様な天然繊維原料を取り寄せストックし、特にアルパカは、さまざまなカラーと種類の原料を取り扱っており輸入量は国内トップ。
「アルパカと言ったら東和さん」というくらいアルパカでとても有名な紡績工場さんです。糸BOOKのデザインにもアルパカのシルエットのデザインが入っていて、アルパカへの敬意、拘りを感じます。

東和さんの企業メッセージとして、
"こだわりは暖かさとして伝わる" を掲げています。東和さんが作る糸は、全て、あたたかい。見た目もあたたかい。ふわふわしていて、ベーシックで上質な糸から可愛いフェアリーな糸まで作っています。中でもアルパカの紡績がダントツに得意な紡績工場さん。ずっとアルパカの製品でlaceflowerからレッグウェアを作りたい。作るならば東和さんの糸を使って作りたいとずっと夢見ていました。たくさん東和さんの糸BOOKもストックをしていて、BOOKを眺めては、これではないかなあ…と、東和さんのアルパカの糸を使うタイミングをずっと心待ちにしていました。東和さんの糸を使うと決めたら、アルパカの糸がどうやって紡績されているのか知りたいと思い、私は愛知県一宮市にある紡績工場さんへ今年の2月に訪問しに行きました。
まずは、紡績方法の種類を学びます。東和さんでは、様々な紡績機を用いて紡績工程を行なっています。メインで紡績している方法は、梳毛紡績という紡績方法。一つずつ丁寧に、教えてくださいました。梳毛紡績には、大きく分けて2種類。今は珍しい生産性があまり良くない英式梳毛紡績と、英式に比べ、生産性が良い仏式梳毛紡績があります。


実際に、紡績工場へ潜入。機械の音が大きく、大声で説明してもらっています。なかなか声が通らない私は、会話するのに一苦労。

少しだけ、マニアックなお話しだけど、糸のことをお話しします。ウール糸などを紡ぐ糸の種類には、大きく分けて2種類あります。一つは「梳毛」。2つ目は、「紡毛」。どちらもウールなどの天然繊維に使われる典型的な製法ですが、目的や仕上がりがかなり異なります。それぞれ紡績方法も違います。東和さんは、梳毛糸に特化した紡績工場。その他、「意匠糸」と言った少し変わった糸の紡績が得意な紡績工場です。
< 梳毛 >
特徴
長い繊維(長繊維)を使用
コーミング(櫛がけ)して繊維を平行に揃える
不純物や短い繊維を除去
表面がなめらか・光沢がある
強度が高く、毛玉ができにくい
仕上がりイメージ
薄地でシャープ、丈夫
すっきり、さらっとした肌触り
よく使われる製品
スーツ地、ドレスソックス、機能性ソックス
登山用ソックスにも多い(耐久性◎)
紡績方法
簡単に説明すると、以下の流れで紡績をします
カード → コーミング(梳毛工程)→ トップ → ドロー → しっかり撚糸
長繊維を揃えて整列させる
滑らかで強い糸になる
< 紡毛 >
特徴
比較的短い繊維を使用
カーディング(カードがけ)して繊維がランダムに絡み合う
空気を多く含む → ふんわり
仕上がりイメージ
暖かくて柔らかい
表面にふわっと起毛感
ただし、毛玉ができやすい&耐久性はやや弱い
よく使われる製品
ニット、マフラー、セーター、冬用ソックス
ほっこりあたたかい衣類向け
紡績方法
簡単に説明すると、以下の流れで紡績をします
カード → ロービング → 撚糸
短繊維を空気を含ませながらふんわり紡ぐ
暖かくて柔らかい糸に仕上がります
なんとなく、梳毛と紡毛のイメージが伝わると嬉しい。糸って本当に難しいです。今回使用したアルパカの糸は、トライスピン紡績という紡績方法の機械を使用して作った糸(MODEST 1/16)意匠糸を使用しました。ちなみに、意匠糸とは、簡単に説明すると変わった糸。スラブヤーン、ノットヤーンなど凹凸のある糸や、嵩高性のある糸、ふわふわした糸など。
今回使用したMODESTはとても嵩高性のあるふわふわと柔らかい特徴があります。アルパカ・ウール・ナイロンの表記になっている理由としては、飾り糸・芯糸・押え糸にそれぞれ違う糸を使用して紡績をしていることから、このような表記なっていることがわかりました。ふわふわなアルパカの風合いを出す紡績方法をするため、この機械を使って編むために必要な混率だということ。やっぱり、現場をみて知ることが、自分にとって物作りをする上で、いちばんに大切なプロセスだと今回紡績工場を訪問させていただいて、とても腑に落ちた答えだった。

ふわふわな紡績糸の作り方をしているため、とても軽いのが特徴です。もともとアルパカの繊維自体が軽いですが、今回のトライスピン紡績にすることにより、より多く空気が含まれ、軽くふわふわな仕上がりになっています。
ようやく形ある「糸」の状態になってきました。だいぶ工程を端折っておりますが、とにかく一つ一つの工程が細分化されていて細かいです。そして、機械がとにかくうるさい。


North pole の collectionは、laceflowerから「冬の訪れ」をお知らせするアイテム。ここ(東和さんの糸)から始まっています。見るからにふわふわで暖かいタイツは、きっと冬が来るのを楽しみとなるようなタイツとなりました。アルパカを使用したタイツも、なかなか珍しい。アルパカ素材の衣類を身につけたことがない方へ、初めて身につけるアイテムがlaceflowerのアルパカタイツだと嬉しい。アルパカの素晴らしさが、このタイツを通して伝わりますように。

改めて、紡績工場を見学させていただき、日本の細やかな技術を目の当たりにして、とても刺激を受けた。日本人って、美徳が時に面倒になる場面も多々あるけれど、きっとこの細やかなところが、今の日本の物作りに繋がっている歴史なのかなとも思う。素晴らしいアルパカの紡績工程を見れたので、私はこれからもアルパカの糸に自信を持って届けることができることだろう。
工場をアテンドをしてくださった営業の工藤さん。工場見学の段取りをしてくれた畝川さん。本当にありがとうございました。
工藤さんは、初めてお会いしたのですが、糸が好きなんだなあとお会いしてすぐ伝わってきました。もともと物作りをしていた方で、デザイナーの気持ちもわかる繊維の営業さんはかなり強い。汲み取り方も、全然ちがう。工藤さんは、
「もっと若い人に、糸の作り方を知ってもらい。知った上でデザインする人が増えていったら嬉しい」と言っていました。
デザイナーである以上、素材を自分の力で選ぶ以上、どのように糸になっているのか、本質を理解した上で企画デザインをこれからもしていきたい。
私が作るアルパカのタイツ。
ぜひ、安心して足を通してもらいたいです。
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