山で履くレギンスが編み上がりました。
私が作る物作り(レッグウェア)において、大切にしていること。
“繊細で上品”
“大切に扱いたい”
”素材の良さ”
最近、1つ追加された項目がある。
くつ下の読本という昭和39年に発行されたとてもマニアックな本を1万円で購入した。
当時の定価650円。
内容は靴下の総論から原料、糸捲(マニアックすぎ…)、編み立て、
靴下機の種類など、後半になるにつれて技術者向けの難易度たかめのとにかくマニアック。
その本に書いてあった第6章、
「靴下の使命とはきよいくつ下とは」
靴下の使命
1)保温
2)足の保護
3)くつをはく場合、滑りをよくして、はきやすくさせる
4)くつと共に歩行の場合の衝撃を全身に与えないようにする
5)足に美観を添えて、はく人の高尚度を高めると思う
最後の「足に美観を添えて、はく人の高尚度を高める」。
私の作る靴下はこれだ。と改めて気付かされた一行だった。
今回作ったレギンスの意図としては、
私の山行においてレギンスとは年中使い勝手のいいギアの一つであった事。
市場にはメリノウール素材で作られた無縫製のレギンスがなかった事。(いい生地感、薄さの)
黒が多いこと。カルヴァンクラインのチャコールグレーのタイツのような、
服や肌に馴染みがいいカラー展開がなかったこと。
全てをクリアできたレギンスがこの秋、高山植物図鑑からリリース。
長いので、通勤時などにぜひ。
●無縫製・ニット(丸編み)ということ
無縫製(丸編み機)のウール素材を使用して編み立てすることは全く問題なくクリアできる問題だったのですが、
“ちょうどいい生地感・薄くて毛玉にならない”
という2点が絶対条件の項目でした。
私が普段使用している生地縫製のアイスブレーカー175 Everyday Merino Base Layer Leggingsは
3年余り使用しているが、全く毛玉にならない。
ニットよりも生地の方がもちろん毛玉になりづらいのが良さ。
生地の厚さもちょうどいい。生地じゃなくてニットなら…。
これがニットだったら私は恐らくレギンスを作っていなかっただろう。
無縫製というのは、サイドに縫製がありません。(股部分のみ縫製)
生地縫製だと、どうしてもフィット感が足らなかったり、
膝が出て野暮ったい。足が綺麗に見えない。(縫製ならではのゆったり感が好ましい場合もある)
レッグウェアのデザイナーはみんな丸編みが好き。だと思ってる!
靴下が大好きだけど、冬に履くフィット感のあるタイツも大好きで。
タイツのような感覚で、薄くて暖かい足が綺麗に見える山で履くレギンスがあったら最高。
と思い、ニットで編み立てをしました。
●ニットの薄さ
厚すぎると、行動中暑い。ニットなのでフィット感がとてもあるため、
厚いと皮膚が呼吸していない感覚。(登山だとより感じた)
ほど良い薄さに拘りました。
編み地の組織「交編編み」という編み地を取り入れました。
使用した機械は320N(320本の針が一周ぐるりとある機械の事)←マニアック…
この機械は丸編み機の中でも最もハイゲージで、靴下よりはパンストなどによく使われるはず。
国内だとなかなか珍しいゲージの機械。
この機械を使いたかったのですが、一番細いウール番手(1/72)でも糸が太すぎて編立ができないと言われた。
通常は表糸(ウール)+裏糸(ナイロン)を当時に編むのですが、
同時ではなく、交編編みならできるのでは?とふと思いついた。
表糸(ウール)と裏糸(ナイロン)を同時に編むのではなく交互に編む組織のこと。
ウールで交編編みはやったことがなく、機械の調整に時間がかかるけど、やってみようとなった。
そしたら、なんと編めたのだ!
ここから修正や微修正を含めて8回目の修正でやっと編み地が完成した。
成し遂げた感とニッターさんが諦めずに呆れずに(もしかしたら呆れているかも…)
一緒に作ってくれたことに本当に感謝。
奇跡の編み地だと思います。工場さんも初めてやった技術と素材の組み合わせ。
●素材について
CROCE-NZ(NIKKE /日本毛織)高級ウール「Ultra fine wool」に分類される
17.5μ (Super 120)のニュージーランドメリノウールを使用しました。
レギンスは靴下よりも肌に当たる面積も多いので、
柔らかく肌になんのストレスもない素材がいいと思っていました。
雄大な自然の中で育ったニュージーランドメリノは、
光沢と白度が冨み、大きな湾曲のクリンプ形状による豊かな嵩高性と非常にソフトな風合いが特徴です。
また、メリノウールは紫外線から肌を守ると言われているのはご存知ですか?
紫外線遮蔽率が高い素材で、紫外線から皮膚を守ります。
肌を覆うレギンスはメリノウール素材が相性抜群。
●使用シーズン
・夏のテント場(就寝時に)
・秋の紅葉時期(スカートやワンピースの下に)
・冬の雪山登山(パンツの下に)
・春先の残雪期(パンツの下に)
私は秋冬の季節にレギンスを主に使用します。
なので素材もメリノウールで、秋冬用途。
一応、夏も履けたけどフィット感があるので樹林帯は暑く、
稜線を出て風のある10℃前後の気温では特に問題なく快適でした。
●重さ
レギンスの重さは約67g。
とてもコンパクトで、防寒として1枚持っていくのにも躊躇わない重さ。
寒くて眠れるかの不安と、荷物を少しでも軽くしたい葛藤も、
なんの問題もなくお守りとして持っていける軽さ。
使わなくて持っていかなければ良かった、の後悔もない。
旅には、不安をかき消してくれる要素も、余裕も、余白も欲しい。
1つも妥協や勿体ぶったり、無理はしたくない。
テント泊や小屋泊時にも重宝するレギンス。
とてもフィット感があるので薄くても暖かいんです。
山で使う道具とは、しっかりと理由と意図があって、
可愛いから、だけではいけない身体を快適に守るプロダクトであって欲しい。
もちろん可愛いからだけでも問題ないかもしれないけど、
私は、自分が生み出すものにはしっかりと理由があるものにしたい。
高山植物図鑑だけでなく、laceflowerの靴下もずっとそうやって作ってきた。
そういった理由を自分自身に問いただしながら、
作って意味のあるものを、世に、人に、発信できるように。
誰かのためとなるように。
靴下の楽しさを伝えていけるように。
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